自閉症児が親の声に耳を傾けるようになる「会話の前のワンクッション」
自閉症のお子さんは、耳から入る情報を処理するのが苦手。「声をかけても聞いてくれない」という時は、会話の前にワンクッションが必要かもしれません。
子どもの脳にことばを届けるコツを、発達科学コミュニケーションマスタートレーナー、そして自閉症児の母でもある今川ホルンさんの著書より抜粋してご紹介します。
※本記事は、今川ホルン著『脳を育てれば会話力がみるみる伸びる! ことばが遅い自閉症児のおうち療育』(パステル出版)より、一部を抜粋編集したものです。
子どもを認める声かけで楽しく会話をスタート〈肯定の声かけ〉
ことばが遅い子が相手だと、大人はつい一方的に指示を出し続けてしまいがちです。しかし、いきなり「やめなさい!」「早く食べなさい!」と強い口調で指示を出すことから会話を始めてしまったら、子どもの脳はうまく働きません。
なぜなら、子どもの脳はまだママやパパの声を聞く準備ができておらず、指示を出す声をシャットアウトしてしまうからです。
ところが、行動を促す会話の前に、笑顔で優しく「ねえ、たかし君」とか「おお!頑張ってるね」などと、子どもを認める肯定的な声かけをワンクッション挟むだけで、とたんに子どもの耳が開き、ママやパパの声に注意が向きます。このとき、ママやパパの声が耳に入ると、子どもの脳にことばがしっかり届くのです。
「肯定的な声かけから会話をスタートする」のは、自閉症の子の脳に情報が入りやすくするための準備だと考えてください。
脳は最初に入ってきた情報で、その後の働きが変わるという性質があります。不機嫌な顔つきの人が怖い口調で話しはじめると、誰しも身構えて心を閉ざしますが、笑顔の人が楽しそうに話しはじめると、興味が湧いて「なになに?」と身を乗り出しますよね。それが自分を褒めてくれることばだったらなおのこと、得意な気持ちになって「次に出てくることばはなんだろう?」と耳が開きます。
ママやパパが肯定的な声かけをするときは、表情や口調も意識しましょう。笑顔で優しく話しかけられたら、自閉症の子もママやパパに注目して「次に何を話すのかな?」と脳の準備が整います。
多くの自閉症児は、耳から入る情報を処理するのが苦手です。褒めても子どもが無表情でいるというお悩みをよく聞きますが、それは情報が処理されるまでに少し時間がかかるだけ。実は脳の奥にはしっかり届いていて、肯定的な声かけを3カ月続けていると、次第に目が合うようになったり、表情が明るくなったりという変化が現れてきます。自閉症の子の場合、最初のうちは「無反応が大前提」というくらいの気持ちで、根気強く肯定的な声かけを続けていきましょう。
ポイントは“すでにできている行動“に注目することです。
私の娘はよく、朝起きて服を脱ぎ、リビングにゴロンとしていることがありました。以前は「まだ着替えてないの?」「早くごはん食べて」とできていないことにばかり注目してイライラしていましたが、肯定的な声かけを実践しはじめてからは「もう起きたのね!」「自分で1階に下りたんだね!」「もうパジャマ脱いだんだね!」というように、すでに終わった娘の行動に注目して話しはじめるようにしました。
とはいえ、どうにも褒めるところがないこともありますよね。例えば、なかなかテレビを消してくれないとき。私は「早く消しなさい!」といきなり指示するのではなく、「テレビ見ているね」と娘が〝いま〟している行動に注目したり、「コケコッコーってニワトリが鳴いたね」とテレビに映るキャラクターについて見たままを楽しそうに話しかけてみたりしました。
会話をスタートするときに使いやすい、肯定的な声かけまとめました。いつでも見られるようにしておくとよいでしょう。私の生徒さんの中には、プリントアウトして冷蔵庫やトイレ、廊下にまで貼って褒め逃しのないように工夫し、「肯定の声かけ」をマスターした方もいらっしゃいますよ。
『脳を育てれば会話力がみるみる伸びる! ことばが遅い自閉症児のおうち療育』(今川ホルン著,パステル出版)
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